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ジト目でこちらを睨む彼女はしかし怒るというより赤面している。
「いや、あの、ええと……」
「とにかく、さっさと来てもらうわよ」
そう言って俺の腕を引こうとうする葵。
俺は慌ててそれに抗して
「行くって、ええと、どこに……?」
「はあ?」
世界一の馬鹿を見るような目で睨まれてしまった。
「決まっているじゃない!!『献身部』の活動よ!!」
曰く、困っている人のためにこの身を捧げて活動する部活。
うわあ、と思った。
その露骨な態度が顔に出ていたのか
「な、なによ。なにか文句でも」
「いや、別に、うん。」
こくりと頷いて自分でも分からぬままに
「大丈夫」
「……そう?じゃあ、さっそく」
「あ、でも、今日はすまん。ちょっと行くところがあって……」
「あなたに?」
心底意外そうな顔をする葵。
そうか、俺はこの世界でもそういうポジションなのか。
だがここはそれにのっかった方がよさそうだ。
俺はうんうんと頷いて
「そう。そういうこと。だから今日は……」
「……仕方ないわね」
両手を再び組んで、彼女は言う。
「明日からまた頑張りましょう」
俺は内心毒づいてそれに笑顔で応えた。
2-5
「ただいま」
持っているはずのない鍵を持っていた。
知るはずのない帰宅ルートを知っている。
「妹」が帰ってくるのはまだ先だと予想できた。
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