10/11
前へ
/39ページ
次へ
ジト目でこちらを睨む彼女はしかし怒るというより赤面している。 「いや、あの、ええと……」 「とにかく、さっさと来てもらうわよ」 そう言って俺の腕を引こうとうする葵。 俺は慌ててそれに抗して 「行くって、ええと、どこに……?」 「はあ?」 世界一の馬鹿を見るような目で睨まれてしまった。 「決まっているじゃない!!『献身部』の活動よ!!」 曰く、困っている人のためにこの身を捧げて活動する部活。 うわあ、と思った。 その露骨な態度が顔に出ていたのか 「な、なによ。なにか文句でも」 「いや、別に、うん。」 こくりと頷いて自分でも分からぬままに 「大丈夫」 「……そう?じゃあ、さっそく」 「あ、でも、今日はすまん。ちょっと行くところがあって……」 「あなたに?」 心底意外そうな顔をする葵。 そうか、俺はこの世界でもそういうポジションなのか。 だがここはそれにのっかった方がよさそうだ。 俺はうんうんと頷いて 「そう。そういうこと。だから今日は……」 「……仕方ないわね」 両手を再び組んで、彼女は言う。 「明日からまた頑張りましょう」 俺は内心毒づいてそれに笑顔で応えた。 2-5 「ただいま」 持っているはずのない鍵を持っていた。 知るはずのない帰宅ルートを知っている。 「妹」が帰ってくるのはまだ先だと予想できた。     
/39ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加