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「お兄ちゃん!!まだ寝てるの?早く起きてよね!!」
かわいらしい女子の声が聞こえてくる。
どこか甘い、それでいて棘のある声。
耳心地のよい声だった。
俺は自分の耳がおかしくなったかと思った。
お兄ちゃん?
馬鹿な。
俺に「妹」などいない…
「お兄ちゃん~~?」
「妹」とやらはその魅惑的な声で再び俺を呼ぶ。
俺は何が起こっているのか分からぬままに、半ば呆けた状態で階段を下った。
初めて踏む感触が足の裏を支配する。
初めて見る階段。
初めて見る一階。
そしてドアを抜けた所に。
初めて見る妹がそこにいた。
「もう!!お兄ちゃんたら。いつも朝遅いんだから」
両手を腰に当て、前傾姿勢を取りながら、こちらを睨んでいる。
ぽおっと膨らませた頬が愛らしい。
見たこともないような美少女だった。
そう。
見たこともなかった。
「あ、ええと…」
混乱に、言葉がついてこない。
「妹」はそんな俺を見て不審気に眉をひそめた。
「なに?まだ寝ぼけてるの?」
「いや、ええと…」
かすれるような俺の声を遮るように、「妹」は大きなため息をもらした。
「もう。お兄ちゃんはいいけど、あたしは忙しいんだからね。早く朝食を食べちゃってよ」
そこで初めてダイニングテーブルの上に盛られた簡素な食事に気がついた。
サラダにスクランブルエッグ。
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