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2-1 登校ルートは知っているはずがないのに自然と足が向いた。 電柱も、色が剥げた塀も、川沿いの道も。 どれもこれも見覚えがない。 それでいてこれが夢だとも思えなかった。 『ライトノベルの世界へようこそ!!』 あの文面の意味を考える。 ライトノベルの世界? 二次元の世界ということか? だが行き交う人々は俺と同じ立体だ。 鼻も頬も、ちゃんと「奥」を持った立体。 ぺらぺらの平面ではない。 いや、俺がその平面の次元に落ち込んだら、そこは俺にとって三次元の世界になるのか? 自分でも実に馬鹿なことを考えていると思う。 自転車に載ったスーツ姿の男とすれ違った。 三歳くらいの女の子を連れた母親は、川辺に近づいて、何やら虫の観察をしている。 ジャージを着た中学生の集団が高い声をあげて俺の前を行く。 古ぼけた小児科医院を過ぎる。 ありふれた光景だった。 見たことはない。 でもありふれた光景。 それだけに、あの紙切れの文面の意味が分からない。 正体の知れない迷路に放り出されたようなものだった。 それでいて、俺の足は自然と行き先が分かっているようなのだ。 二手に分かれる道の先でも迷うことなく進んでいく。 そもそも俺はどこに「登校」しているのだろうか?     
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