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1 何か妙だなと思ったのは、いつもの位置に枕がないことだった。 目を閉じたままごそごそと手で探る。 だがそこにあるはずの大分色あせた枕の感触は消えてしまっていた。 首をかしげながら上体を起こす。 まぎれもない自分の部屋だ。 大学生らしい、ベットとローテブルと本棚ぐらいしか場を占めていない部屋。 昨夜使いぱなしだったノーパソが唯一光を放っている。 俺はカーテンを開けた。 途端に飛び込んでくる眩しい日光。 その温かさに変わりはない。 枕はどこかに落としてしまったのだろうか? 釈然としないが、とにかく大学に行くために部屋を出る。 ひんやりとした床の感覚に爪先立ちになりながら「ドア」を空けた。 全身の毛が逆立った気がした。 瞬間、ハっとする。 後ろ手に閉まるドアの音に、恐怖が全身に沸き立ってくる。 ドア? 二続きの部屋しかない大学生のマンションで? 驚いたのはそれだけではなかった。 階段がある。 手すりが横についた、幅の広いやや滑らかな階段が階下へと延びている。 階段? そんな馬鹿な。 突然現れた奇異な光景に、まだ夢でも見ているのかと、正気を疑いざるをえない。 ひんやりとした朝の空気は今や俺の体中にまとわりついていた。 そんな時だった。     
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