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「今夜は何を言ってもダメみたい。私と話すよりゲストと話した方がいいようね」
マミはそう言うと、「じゃあね。元気になったらまた遊んで」と言って帰ってしまった。
変な子。そう思いつつも、今夜のアザミに深く考える力はもう残っていなかった。
暗闇の夜空をボンヤリ眺めながら幹也を思い出していると、今度は足音もなく突然声がかけられた。
「こんなところにいたのね」
それは思いがけない人物だった。
「木下さん、どうしたんですか? お忙しいんじゃ……」
幹也の存在は抹消されることなく、明後日、葬儀が行われることになっている。
「ううん、全然。周りがいろいろやってくれるから、こういう時は家族って暇みたい。アザミちゃんとゆっくり話したくて抜けてきちゃった」
喪主がいいのだろうか? アザミの心配をよそに、木下はさっきマミが座っていた椅子に腰を下ろすと、「幹也から病気のこと聞いていたんでしょう?」と早速話し始めた。
隠す必要もないので、アザミは素直に「はい」と返事をする。
「お金のためとはいえ、馬鹿なことに力を貸したと思っているわよね?」
アザミが返事を躊躇っていると、木下はフッと口元を緩めて「分かってるわ。答えなくていいのよ」と優しく言った。
「でも、これだけは言っておくわね。幹也の母親になれて私は本当に幸せだったのよ」
「でもね……」と木下が瞳を伏せた。
「矛盾しているようだけど、Dr.Rの研究についてはずっと憤りを覚えていたわ。そして、あの子には申し訳ないことをしたとずっと思っていた。寄付をしていたのも幹也に対する懺悔の現れ。生んでごめんなさいというね」
「それは……母親として幹也君の誕生は嬉しかったけど、人としては後悔していたということですか?」
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