七番目の息子

34/35
前へ
/179ページ
次へ
「そうね、そういうことね。だからあの子が死を選んだとき、私は貴女のように『逝かないで』ってあの子に言えなかった。後悔の念ね。あの子に負い目があったから……」 木下の顔が哀しみに歪む。 「なのにあの子、こんな私に言ってくれたの。『母さんの子として生まれてきて良かった』って。夢のようだったわ。あの子の口から一生聞くことができない言葉だと思っていたから。幹也をそんな風に思わせてくれたのはアザミちゃん、貴女でしょう?」 木下の瞳に涙が浮かぶ。 「その言葉であの子の死を受け入れようと思ったの。あの子の最後の願いだもの。母親としてちゃんと聞いてあげなくちゃって思った」 おそらくそこには激しい葛藤があっただろう。 「――死こそが幹也君を幸せにする方法だったんでしょうか?」 しかし、アザミはまだ納得していなかった。 「分からない。それでもあの子が選んだのは永遠の命ではなく、『幸せ』を感じたその一瞬だったんだと思う。あの子にとって永遠の命なんてどうでもよかったのよ。あの子はその一瞬をずっと探していたんだと思う」 ――幹也は自分の価値を知り幸せだと言った。 「彼は価値ある自分を見つけたとき、自分が何者かも分かったんでしょうか?」 「どうかしら? でも……あの子の顔はとても穏やかだったわ」 全てを悟った顔だったと木下は言った。
/179ページ

最初のコメントを投稿しよう!

35人が本棚に入れています
本棚に追加