35人が本棚に入れています
本棚に追加
アザミは幹也の葬儀に行かなかった――いや、行けなかった。深い理由は無い。単に木下と別れた後、高熱が出たからだ。
お陰で退院も先送りになった。抵抗力が弱まっているため、担当医が感染症を危惧したのだ。
祖母は医師の判断にホッとしているようだった。おそらく家の件でだろう。何か言いかけては口を噤んでしまう、ということがここ最近幾度かあった。アザミにどう説明しようか思い悩んでいたのだろう。
さっさと言っちゃえばいいのに、とアザミは思ったが、今は何も言わず祖母の出方を待つことにした。
「へぇぇ、奇々怪々の事件だとさ。オカルトチックなタイトルだこと」
週刊誌を読んでいた祖母がケタケタと笑い出した。悩みが失くなると、人間はこうも違うものなのかとアザミは鼻で笑う。
「そんなに爆笑するほど可笑しな事件なの?」
「二十三名の研究所員が原因不明の何かで死んだんだとさ。『死のウイルスか?』って書いてあるけど、『何か』って何なのさ?」
「これだから週刊誌ってヤツは……」と手に持つ雑誌に罵詈雑言を浴びせているが、それを毎週律儀に買っているのは祖母だ。
文句を言うくらいなら買わなかったらいいのに……とアザミは呆れる。
「ったく! こんな曖昧な記事でもオカルト扱いにすれば、立派な記事になっちゃうんだと思ったら笑えてきてね。で、締め括りの言葉が『研究所、及び、研究所員に対して現在鋭意調査中』だとさ。警察か!」
祖母のツッコミは横に置き、研究所員……? 「見せて!」とアザミは祖母から週刊誌を奪うとそのページを読み始めた。
そして……アザミの思った通りだった。研究所の名前など詳細は伏せられていたが、どうみてもこれはDr.Rの研究施設のことだった。
まさか木下が? あの時感じた疑惑めいたものが、一気に確信に変わり、アザミの胸に広がっていった。
最初のコメントを投稿しよう!