鬼子母神

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アザミは幹也の葬儀に行かなかった――いや、行けなかった。深い理由は無い。単に木下と別れた後、高熱が出たからだ。 お陰で退院も先送りになった。抵抗力が弱まっているため、担当医が感染症を危惧したのだ。 祖母は医師の判断にホッとしているようだった。おそらく家の件でだろう。何か言いかけては口を噤んでしまう、ということがここ最近幾度かあった。アザミにどう説明しようか思い悩んでいたのだろう。 さっさと言っちゃえばいいのに、とアザミは思ったが、今は何も言わず祖母の出方を待つことにした。 「へぇぇ、奇々怪々の事件だとさ。オカルトチックなタイトルだこと」 週刊誌を読んでいた祖母がケタケタと笑い出した。悩みが失くなると、人間はこうも違うものなのかとアザミは鼻で笑う。 「そんなに爆笑するほど可笑しな事件なの?」 「二十三名の研究所員が原因不明の何か(・・)で死んだんだとさ。『死のウイルスか?』って書いてあるけど、『何か』って何なのさ?」 「これだから週刊誌ってヤツは……」と手に持つ雑誌に罵詈雑言(ばりぞうごん)を浴びせているが、それを毎週律儀に買っているのは祖母だ。 文句を言うくらいなら買わなかったらいいのに……とアザミは呆れる。 「ったく! こんな曖昧な記事でもオカルト扱いにすれば、立派な記事になっちゃうんだと思ったら笑えてきてね。で、締め括りの言葉が『研究所、及び、研究所員に対して現在鋭意調査中』だとさ。警察か!」 祖母のツッコミは横に置き、研究所員……? 「見せて!」とアザミは祖母から週刊誌を奪うとそのページを読み始めた。 そして……アザミの思った通りだった。研究所の名前など詳細は伏せられていたが、どうみてもこれはDr.Rの研究施設のことだった。 まさか木下が? あの時感じた疑惑めいたものが、一気に確信に変わり、アザミの胸に広がっていった。
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