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どんな手を使ったかは分からないが、木下は自身が言ったように、本物の鬼か悪魔になったのだろう。
狂おしいほどに我が子を愛した木下。そんな母の愛を一身に受けた幹也。死してなお、アザミはやはり幹也が羨ましく憎らしく思えた。
「週刊誌を睨み付けてどうしたんだい? 何か気になることが書いてあったのかい?」
「ううん……何でもない」
アザミは祖母にそれを返して、「そう言えば、今日じゃなかった?」と話題を変えた。
「何がだい?」
「真弓ちゃんとランチって言ってなかった?」
「あっ……? わっ!」祖母も思い出したようだ。
「今日って二十日だったかい?」
「そうだよ。今週は月曜日が振り替え休日だったからね」
「それだよ! 曜日と日がぐちゃぐちゃで一日ズレてたよ」
祖母はまだ呆けてはいない。だが、年中休日だから時々こんなポカをする。
「とにかく急いで帰らなきゃ」
真弓とは、家のことを教えてくれた例の電話の主だ。祖母とは大部屋時代からの仲らしいが、彼女は大金持ちと結婚したので、年金暮らしの祖母と違って悠々自適の未亡人だった。
二人は再々電話で話しているが、会うのは月一回と決めていた。
祖母曰く。会えばお互いにライバル心が湧き出てきて、凄くエキサイトするのだそうだ。
だが、その後がいけない。疲れて寝込んでしまうのだ。それは真弓も同じらしい。
急いで帰るのは、真弓に負けないように、めいっぱいお洒落をするためだ。
彼女がいるから祖母は呆けずにいられるのだとアザミは思っている。
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