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小金井は部屋に入ってくるなり、「遅くなっちゃった。お薬飲んだ? 気分はいい? 吐き気はない?」と矢継ぎ早に質問を始めた。
ミイは質問に対して「はい」とだけ小さな声で繰り返す。まるで壊れたお喋り人形のようだ。
「あっ、小金井さん、いらしたんですね」
部屋を覗いた飯田が小金井に目を留めると、「明日の検査で異常がなかったら退院できるそうですよ。良かったですね」と微笑んだ。
「ありがとうございます」
「うわぁ、いいなぁ」アザミの無邪気な声に、飯田が「アザミちゃんも体力を回復して元気になろうね」と言った。元気になれば退院できると言いたいのだろう。
「了解です!」
お茶目に敬礼するアザミを見ながら小金井は、「アザミちゃんの方が元気に見えるんだけど」と笑う。
表面上は確かにそう見えるだろう。
「ですよね! 私も早く退院したいなぁ」
だが、人間とは取り繕うのが上手い生き物だ。内なる本当のことは他人には分からない。
「祈っておくね」
アザミが『可愛く見える子』の仮面を被るようになったのは、だからだ。どんなところから余計なことを招き寄せ、波風が立つか分からない。それを回避するにはこの方法が一番効果的なのだ。
それは大人がアザミを子供だと思っているからだ。
多くの大人は子供を『まさか』の目で見る。
――まさか、うちの子が……!
――まさか、あの子に限って!
まさか……まさか……まさか……!
アザミもその『まさか』の対象者だから本性はバレないというわけだ。
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