プロローグ

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「この子は七歳の時に大火傷を負いましてね。それからですよ、こんなふうに入退院を繰り返すようになったのは」 深淵の底でも覗き見たような、暗い溜息を吐く祖母の顔には憂いが滲み出ているが……これも演技だ。 「火傷の原因は花火でしてね。近所の子が振り回したそれがね、この子の服に引火したんですよ。本当、もう、アッという間に」 思い出したくもないのに……。 これを着衣着火と言い、こういう事故は年間かなりあるそうだ。 ネットで調べるとそれについて被害注意情報なるものまであり、『可燃性の高い繊維でできた衣類は注意が必要』と呼びかけていた。 ――だが、今更だ。知ったところで虚しいだけだった。 ちなみにだが、その時、私はレーヨンでできたワンピースを着ていたらしい。その繊維は易燃性繊維といって、非常に良く燃える繊維の一つとそこに記載されていた。 「恐ろしかったですよ。あれよあれよという間に燃え上がりましてね。私なんか悲鳴も上げられない状態でしたよ。まぁ、何だかんだ言うより見て下さいな」 クライマックスというように、祖母が私のパジャマを捲り上げた。 剥き出しになった背中に、それまで黙って聞いていた人はヒッと息を呑む。 さもあらん。 右肩からお尻の少し上まで、背中全体が目を背けたくなるようなケロイド状態なのだから。 だが、驚きの理由はそれだけではない。それがまるで大輪の黒薔薇『ブラックバカラ』のように見えるのだ。 黒薔薇は憎しみや恨みといったネガティブな花言葉持つ。だから尚更、不気味に見えるのだろう。 この火傷は皮膚全層にまで至っていた。重症熱傷Ⅲ度。それが当時受けた診断だった。要するに――非常に酷い火傷だったということだ。
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