プロローグ

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入退院を繰り返すのは植皮術を行うため。子どもの頃のこんな大火傷は、成長に合わせて皮膚移植をしないと、引き攣れてとんでもないことになるらしい。 だが、不思議なことに、何度手術をしても赤黒い薔薇が形を変えることはなかった。まるでそれが私の象徴だとでも言っているように……。 「本当、この子は不憫な子ですよ……可哀想過ぎます」 祖母は悲しげに瞼を伏せるが、可哀想だと思うのなら、どうしてこの姿を人前に(さら)すのだと言いたい。 ――祖母が本当はそう思っていないからだ。心の中では万歳三唱しているに違いない。何故なら、加害者の親がスキャンダルは命取りとされる政界人だからだ。 彼らには面子(めんつ)がある。それも多大な! だから『心からのお詫びです』と言いながら派手な誠意を見せる。 入院のたびに届けられる豪華な花束や高価なお菓子は勿論のこと、手術にかかる費用や見舞金まで――秘書(・・)の手で届けられる。 だが、彼らが病院に足を運んだのは事故のあった日、入院した時のみ。マスコミに嗅ぎ付けられたからだ。それ以降一度も来たことがない。 普段はこういう不義理に煩い祖母だが、彼らのことは一度も悪く言ったことがない。それは十分な補償を貰っているからだと思う。しかし、その金額が幾らか私は知らない。 断言してもいい。祖母の老い先は全然短くない。化け物のように、人の生き血を吸って何百年も生き続けるに違いない。
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