後編

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紫藤さんは原稿を受け取って、ぽつりと呟いた。 「私みたいなのが少女漫画家だなんて......似合わないですよね」 疲れたような、諦めたような、悲しげな表情を浮かべて。 「確かに紫藤さんの見た目には似合わないかも知れないけど、私はこのイラストすごく素敵だと思います」 その表情が気になって、思わずそう言った。 「え......?」 「私みたいな素人でもすごく丁寧に描き込まれているのが分かるし、中央の女の子の表情なんて素敵すぎて思わず見とれちゃいました」 そもそも、似合わないというのはまだ二回しか会ったことのない、ろくに話した事もない私から見た彼のイメージと合わせてということ。 本来の彼とは違って当然だし、仲の良い人から見れば似合っているのかもしれない。 だから気にする必要なんてない。 そう言うと紫藤さんは驚いた顔をして、それから淡く微笑んだ。 「......貴女は優しい人ですね」 ドクン、と。 心臓を大きく揺さぶられたような衝撃。 自分で言った言葉に照れたのか顔を赤くして頬をかく、思春期の少年のような彼の姿を呆けたように見つめた。 ほら、イメージなんて一瞬で変わる。 先程までどこか冷たく見えていた彼の瞳は、今では優しげにしか見えない。 「宮原さん」 「何ですか?」 名前を呼ばれただけで高鳴りだした鼓動を押さえ込んで、何でもない振りをした。 「締め切りは二日後なんです。だから三日後に......また、ここで会えませんか?」 少し俯いた彼の顔は真っ赤なまま。 「......はい」 きっと私も同じ顔をしている。
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