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紫藤さんは原稿を受け取って、ぽつりと呟いた。
「私みたいなのが少女漫画家だなんて......似合わないですよね」
疲れたような、諦めたような、悲しげな表情を浮かべて。
「確かに紫藤さんの見た目には似合わないかも知れないけど、私はこのイラストすごく素敵だと思います」
その表情が気になって、思わずそう言った。
「え......?」
「私みたいな素人でもすごく丁寧に描き込まれているのが分かるし、中央の女の子の表情なんて素敵すぎて思わず見とれちゃいました」
そもそも、似合わないというのはまだ二回しか会ったことのない、ろくに話した事もない私から見た彼のイメージと合わせてということ。
本来の彼とは違って当然だし、仲の良い人から見れば似合っているのかもしれない。
だから気にする必要なんてない。
そう言うと紫藤さんは驚いた顔をして、それから淡く微笑んだ。
「......貴女は優しい人ですね」
ドクン、と。
心臓を大きく揺さぶられたような衝撃。
自分で言った言葉に照れたのか顔を赤くして頬をかく、思春期の少年のような彼の姿を呆けたように見つめた。
ほら、イメージなんて一瞬で変わる。
先程までどこか冷たく見えていた彼の瞳は、今では優しげにしか見えない。
「宮原さん」
「何ですか?」
名前を呼ばれただけで高鳴りだした鼓動を押さえ込んで、何でもない振りをした。
「締め切りは二日後なんです。だから三日後に......また、ここで会えませんか?」
少し俯いた彼の顔は真っ赤なまま。
「......はい」
きっと私も同じ顔をしている。
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