絡まる鍵 guilty feeling

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昔と変わっていなければ、 芽衣は入浴に30分はかかるはずだ。 その間、ここには ・・・俺と奏だけ。 「そ・・・奏」 「・・・なんですか」 冷たい声で答える奏。 いや違う。冷たいんじゃない。 きっと、どうしていいかわからないんだ。 この状況を。 「隣、座ってもいい?」 「だめです。入浴中とはいえ、芽衣さんがいるでしょう」 「あいつ30分くらい入ってるから」 静止を聞かずに隣に座ると、 奏が身体を強張らせたのがわかった。 「奏」 「あの、ここでは小野寺と呼んでいただけますか。万が一聞かれたら困りますから」 「わかった。奏」 「――っ、だから!」 奏が怒ってこっちを向いた瞬間、 ぎゅっと、抱きしめた。 「ちょ、っと・・・・・・放してください」 「だめだ」 放すもんか。 久しぶりの奏なんだ。 話したいのに話せなくて、 近くにいるのに触れられなくて、 やっと今、触れられた。 あ・・・ 奏の肩を掴んで、放す。 奏に聞かなくてはならないことがあるんだ。 「奏、お前今日・・・・・・泊っていくのか?」 「はい」 「芽衣の意図、わかってるのか?」 「意図?」 「奏はこのあと――」 『あたし、奏くんとついに・・・・・・結ばれるんだから』 「――芽衣を、抱くのか?」 俺が肩を掴む力が強かったのか、 それとも気まずかったのか、 奏が顔をしかめた。 「・・・っ」 「ん?」 「・・・・・・抱きます」 奏は小さな声で、でも確かに 抱くって言った。 その言葉が、どれだけ俺を傷つけるかも知らずに。 俺と目をあわさないようにして、 奏は・・・言う。 「愛のない行為なんて・・・・・・数え切れないほど、してきましたから」 ――その言葉が、 俺から冷静さを奪った。 気がつくと俺は、 奏をソファに押し倒していて―― 俺が奏に触れるんだ。 俺が奏を抱くんだ。 他のやつを奏が抱くのなんて嫌だ。 俺が、俺が、俺が・・・ ――その言葉だけが、 頭の中に渦巻いていた。
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