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そうしなくては、上手に笑える気がしなかった。だってあんまりに――彼の夢は荒唐無稽で。
あんまりに、私の胸を騒がせてくれるから。
「……私が中学生のころから? それってロリコンだよ」
「歳は三つしか違わなかっただろ! それに今ならもう、何歳差でもおんなじだ」
そう、二人はもう大人。
未来を、自分の人生を、自力で決定してもいい年齢。
――彼の夢はあまりに強引に私の心を揺すぶっていく。
ああ、そんなに揺らされたら花ごと落ちてしまう。落ちる先はどこだろう? あたたかく柔らかい地面か……冷たく優しい水面だろうか?
けど……違う。違うんだ。
「残念だけど、私が欲しいのは受け止めてくれる地面でも川でもないんだよ」
瞬兄が一瞬、がっかりした光をその目に宿らせる。
私は、口元がゆるむのを止められなかった。だって多分、これから言うことの意味を、瞬兄だけが理解してくれる。
「私はね、一緒に椿のひとつの花になって。一緒に丸ごと樹から落ちて。土になじんだり川に流れたり、一緒に冒険してくれる人がいいの」
かつて――
椿は樹から逃げたいのかと、思っていたことがあった。
でも、色々考えたあげくこうも思ったのだ。落ち椿たちは――違う世界へ冒険しに行きたいのじゃないかと。
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