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そう思えるようになったのは、私が母の手を離れて働くことを決めたときからだったろうか。
母と向き合う余裕ができたころからだっただろうか。
瞬兄は少し目を丸くした。
そして、こほんとわざとらしく咳払いをした。
「……あー、じゃあええと、俺を美穂と同じ椿の花びらにしてくれ……ください」
私はふき出した。
「瞬兄がそれ言うなら、雄しべでしょ!」
「い……いいじゃねえか花びらでも!」
もう本当におかしな人! よりによって私だなんて。落ち椿に執着する変な女の私にだなんて。
しかも同じ花びらにしてほしいだなんて、なんて滑稽で――愛しい言葉!
たった一人だけの私の理解者。さよならだと思っていたのに、戻ってきてくれた人。
全然変わらない私を、全然変わらない気軽さで受け入れてくれる人。
まっすぐに彼を見た。大人になった彼。まだ社員になりたてだろうに、堂々と背を伸ばして私の前に現われた人。
私は笑って、彼に言った。
「一緒に冒険するには、まだまだ頼りないかな。ぺーぺーの平社員さんには安心して頼れません」
うぐ、と彼がうめく。
一刻も早く言いたかったんだと、言い訳がましく付け足してくる。
情けない姿。私はニヤリと笑って、落ちていた椿のうち、まだまだ美しい一輪を拾い上げた。
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