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「瞬兄、言葉を選んで」
思わず彼を見上げて名を呼ぶと、瞬兄――香月(かづき)瞬は「悪ぃ」と頭をかいた。
彼は今年高校二年生になった。年の差はあるが幼なじみ――と言ってもいいだろう。私が本当に幼いころ、父が早々に入院してしまって、母はその看病と仕事で手一杯だったから、私はよく近所の香月家に預けられていた。
香月家はとても明るくいい人たち揃いだ。瞬兄もその一人だった。少し、言葉が軽すぎるきらいはあるけれど。
まあ要するに、兄代わりのようなものだ。
瞬兄は私の隣にしゃがみこむ。瞬兄は帰宅部だから、椿を見過ぎて帰りが遅くなりがちな私を探し、よくここへ来る。そしてなぜか一緒に落ち椿を見ていくのだ――その風情はちっとも理解しないくせに。
「こないだ友達と遊びに行ったときに、あー椿があると思って眺めてたら、あれは山茶花だって教えられちまったよ」
「また椿と山茶花を間違えたの。いい加減覚えてよ、何度も教えたでしょ」
椿と山茶花が間違えやすい花なのは分かるが、断然椿派の私としてはいただけない。
何より山茶花は――椿のように花ごと落ちない。
「椿は花ごと落ちるのよ。そこによさがあるのに、瞬兄ってばほんとに」
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