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「あーあー分かった分かった、悪かったって」
両手を振って謝意らしきものを表す瞬兄。私はふんと横を向いた。
ちょうど、私の目の前を椿がまたひとつ、ぽとりと落ちた。
残念ながら水面には落ちなかった。ここにある椿のすべてが水の上に落ちるわけではない。地面に落ちるものももちろんある。
だが私は地に落ちた椿を見ると、どうしてもそれを水の上へと移動させてしまう。
椿を川へそっと流す。椿を中心に、丸い波紋が起きて水面を揺らす。先客の椿たちをもかすかに揺らし、そうして彼らはさらさらと小川の流れに乗っていく。
この川に鯉でも居ればまたひときわ風情が増すだろう。鯉と戯れる赤い椿。そんなことを夢想する。
「いつも思ってんだが、何でわざわざ川に流すんだよ?」
「……」
瞬兄の問いに、私は少し考えたあと、
「川を流れていく落ち椿が好きだから?」
「何で疑問系だよ。自分でも分かってねえのか?」
「……」
私はしゃがんだまま、両手で膝をかかえた。
荷物は汚れるのも構わず椿の根元に置きっぱなしだ。「盗まれるぞ」と瞬兄が私の荷物まで手元に寄せて、守ってくれる。盗むもなにも、こんなところで川を眺めている中学生なんかに近づこうという人間はいないような気がする。
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