冗談じゃない

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 建物という遮蔽物を駆使して車は旧市街を走り回る。ドローンはなかなか車を射線上に捉える事が出来ない。しかしドローンは狭い小路に手間取りながらも、しつこく追い続ける。  幸いなことに旧市街の人たちは新都市に仕事に出るので昼間の人口が少なくなる。多少家屋にぶつかろうとも気にすることはない、と思っているのか、男はプレハブのあばら家を車で突き抜けた。  ドローンはあばら家の屋根の筋交いに脚をとられて転倒する。だが、すぐに立ち上がった。  不味いことに、いま走っている道は少し長い直線だ。  このままではエヴァポレーションモードの餌食になる。  ドローンは銃口を真っ直ぐこちらに向けた。  次の瞬間、閃光と共に弾丸が発射された。  その時、男は見計らったかのようにブレーキを踏み込み、サイドブレーキを引き起こして直角にターンした。遠心力軽減装置が思いきり稼働して車体が傾斜する。弾丸は少し先の地面に着弾し、地面を抉った。車は地面から流れた強い電流を少し受けたらしく、帯電した。俺は着弾の衝撃で頭を強く打った。少しは体に電流が流れた気もする。  蒸発した地面からの蒸気で煙ったその隙に、車は脇にあった道に逃げ込んだ。  なるほど見越し射撃を逆手にとったわけだ。この男、相当な回数修羅場をくぐり抜けた経験があると見た。  男はフロントガラスにマップを表示して現在地を確認する。  俺は安定して走行している間に後部座席でシートベルトを締めようとした。こうもコロコロとジャガイモみたく転がるのは御免だ。  だが男はマップを仕舞うと俺の手を掴んでシートベルトを締めるのを妨げた。そして首を横に振った。  (締めるなってことか……?)
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