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ケインズと俺は、そこら辺で"拝借"した誰かの車で、旧市街のセンサー類が無い場所を通って先ほどの川の下流付近に出た。
車を少し離れた土手に乗り捨てて、川の縁に降りると、小さな小屋がちょこんと岸に建っているのが見えた。粗末な作りのあばら屋で、トタンを柱に接いでいる六角ボルトの錆がトタンの筋に垂れて広がっている。
「ここは?」
「俺のセーフハウスみたいなものだ。何かあった時のために借りといた。だが、時期に足がつくだろうから長居は無用だ」
ケインズはドアの鍵を開けると、照明を点けた。裸の白熱電球がひとつ、小屋の天井からぶら下がっていて、それが薄暗い小屋の中を照らした。小屋はボートの格納庫らしい。中央に電動ボートが置かれている。
「早く座れ。今、消毒するから」
俺は椅子に座って、ケインズが救急箱を取ってくるのを待った。
部屋全体は梁や柱が剥き出しの粗末な見た目だが、掛かっているボクサーや、胸の大きい女の人のポスターを見ると、妙に親しみを覚えた。
ケインズが戻ってくる。
「あんたポスターなんて、渋い趣味してんな」
「ああ、親父からの譲りもんだ。古くさいが、べっぴんさんはいつの時代もべっぴんだからな」
ケインズは脱脂綿に消毒液を染み込ませて傷に当てた。かなり染みる。
「そういや、ケインズは警察官だったんだろ? なんでドローンなんかに追われてたんだ?」
「俺にも判らん。いつものように没落地区(スラム)の警らをしていたら、急に浮浪者に襲われてな。咄嗟に救援を要請したら、後ろから撃たれた」
ケインズが灰色のワイシャツのボタンを開けて肩を見せた。盛り上がった僧帽筋にはショックガンを受けて切れたのを縫合した痕がある。
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