冗談じゃない

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「へぇ、珍しい」 ナズナさんが顔にかかった長い髪をかきあげた。ほんのり桃色がかった白いうなじが横から見えて、俺は唾をゴクリと飲み込んだ。  付き合い始めて半年くらい、ナズナさんとは上手くいっていると思う。彼女はうちの大学の講座では知らない奴が居ないほど有名人だ。線の細そうな体つきだがそれでいてふくよかな胸に、野郎ども皆が虎視眈々と彼女を狙っていたわけだ。  過去形なのはお察しの通り、この俺、緒方 来夢(おがたらいむ)が見事ナズナさんを射落としたからだ。花が好きだという情報をとある筋から入手したので、今度植物園にでも行きませんか? と誘ってみたのだ。そうしたら女神の気まぐれなのか、一緒に行ける事になった。そこからは俺の冴えない見かけによらずよくまわる舌で、あれやこれやと話を盛り上げた甲斐あって、今の関係に至る。  勿論、多少はあのシステムのお陰でもあるけれど。  2064年。最悪のシナリオである核戦争の危機、"第二のキューバ危機"が発端で、世界的に意思の正確な疎通が重要視されるようになった。そこで日本の研究チームが言語認識補助演算AI『レクシス』を開発した。  仕組みは簡単で、頤に埋め込んだマイクロチップが現在の状況をレクシスに送信して"言語の海"という検索エンジンで適切な言葉を選択、構成してレクシスが解析チップに送信するというもの。  送信された言葉は話者の好きに取捨選択されて、発せられる。補助機能としての能力は凄まじく良く、初期から驚くべき正確さで社会的懸念を一蹴し、今では世界のほとんどの地域で導入されている。 ちなみに『レクシス』は旧ギリシャ語で"言葉"という意味だそうだ。
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