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ニューマテリアルでできた高層ビルの黒ずんだ灰色の鈍い反射が少し眩しい。俺は街路樹の大きく広がった枝葉の陰を通るようにしてスクーターを進めていく。
それにしても、暑い。
都市の気候が自由に調節可能なこのご時世(2120年)に、わざわざ"サマーウィーク"なるものを設けて調節機能を切って夏を味わおうなどとは、センター(中央コントロール)も存外暇なのだろう。8月の上旬ともなると、気温は40度を超える日もあるのに。
熱中症で緊急搬送される奴が続出すれば、すぐにでも止(や)めてくれるかな?
俺はヘルメットに付いている端末で家に着く頃に届くよう、100円ジュースを注文した。ついでに夏に合わせたコーディネートの服を電子カタログで2セットほど。服飾ホロを買えるほど、今の大学生は裕福じゃない。
注文を終えたところで、電話がかかって来た。
「ヤッホォぉ~、くたばってるかぁあ!? ライム」
両耳に爆音が飛び込んでくる。講座の友達のアサヒからだ。男にしては高めの声で、余計に耳が痛い。
──オマエカ、アサヒ。マイク越シニ大声出スナヨ。
「お前か! アサヒ。マイク越しに大声出すなよ! いくらリミッターがついてるからって音が割れて耳が痛いだろうが!」
「ってことは、今運転中? どうせならハンドル揺らして事故れば良いのに。ナズナさんと……羨ましい奴め」
男のヒステリックほど醜いものはない。至言だな。
──スマンナ、実力ッテ奴ダ。
「すまんな、実力って奴だ。で、何の用?」
「ああ、そうそう。最近、解析チップの一斉アップデートがあっただろ? あれ、お前は更新した?」
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