六 水曜日

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 最近は菌の繁殖だなんだと、そもそも手のひらで握ることがタブー視され始めているらしい。口やかましいワイドショーが声高に言っているのを聞いたのはいつだったのかは覚えていないけど。 「ばーちゃんのおにぎりって、特別なもの使ってないのにめちゃくちゃ美味いの、なんなんすかね? かーちゃんのは塩っからいのに、ばーちゃんのはめちゃくちゃ美味かったなあ。梅干しも手作りしてたんで時々入ってたんですけど、これがまたすっぱくて。なのに後引くんすよねえ」  思わず奥歯の方から唾液が出る。売り物ではない、手作りの梅干しは食べたことがない。  エレベーターに向かいながら、想像しちゃいました? と聞かれて、すっぱい顔になっていたのを自覚する。数瞬見つめあってしまって、吹き出して笑い合った。 「すみません、つい」 「いえいえ。梅干しはないですけど、ふりかけ、よかったらどうぞ」 「え」  都築さんのポケットから出てきたのは、手のひらサイズの瓶だ。綺麗に剥がしきれていないラベルはイチゴジャムだろうか。  中には、こげ茶色のものが詰まっている。中身に思い当たって、思わずまじまじと瓶を眺めてしまった。 「昨日の……?」 「はい。おかかです」 「本当に、作れるんだ……」  なんだろう、この感動。なんて言ってたっけ、ダシを取った後の鰹節? がこうなるって、どんな魔法だ。いや、料理か。     
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