八 金曜日

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 首から下げた社員証のケースには、いつも自販機で飲み物が買える程度の小銭を入れている。百円玉二枚を都築さんの手に押し付けて背を押した。羞恥で赤くなった顔が治らないから、とりあえず一人になりたい。  背中に触れていた手から抵抗がなくなる。数歩先で都築さんが体半分振り返った。 「ごちそうさまです。今度はおれが何か奢りますね! また来週」  爽やかに笑って去っていく若者はキラキラして見えた。座りっぱなしの事務仕事で猫背ぎみな僕とは違う、伸びた背筋が眩しい。 「いいなぁ……」  口をついて出たのは羨望か、賞賛か、それとも嫉妬だろうか。感情の名前も、何に対してのものだったのかも、自分でもはっきりした答えは持っていなかった。
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