十 火曜日

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「え、カニじゃないんですか? ウィンナーを縦半分に切って、端の方と真ん中に切り込み入れて足と目にするやつ」  調理行程を聞きながら形を想像はできる気がするのだが、記憶の中の姿と合致しない。ここに切り込みを入れる意味とは、と思いながら食べていたことしか思い出せないのだが、これいかに。 「切込みなのか、切ろうとして切れてないのかわからない感じの……かろうじてくっついてる、みたいなのがたくさん付いた、よくわからない形の肉しか思い出せない」 「なにそれこわい」 「そういえばタコも時々足取れてたな」 「……お母さん、不器用さんですか?」 「器用とは、言えないですね」  我が母ながら、弁護はできないレベルだ。味は悪くないのに、見た目が残念なことがよくあった。同じくらいの大きさに切る、というのはできるのに、なぜか飾り切りしようとして大失敗するみたいなことが間々ある。  家での普段の食事は普通だと思う。しかし、遠足の時の弁当やクリスマスや正月なんかのイベントごとには謎の物体が並ぶのだ。 「不器用というか、センスがないというか」 「あはは……」 「うさぎりんごとか家で見たことないのに、風邪ひいた時は一口大に切ってあったりして……もしかして挑戦して失敗したのかーとか」     
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