十 火曜日

3/4

146人が本棚に入れています
本棚に追加
/57ページ
 苦笑するしかない都築さんの気持ちもわかる。家族である僕も父も、母の作る微妙な見た目の料理には苦笑を漏らすのが常だ。失敗したなら食卓や相手の目に触れる所に出さない、という選択肢もあるはずだが、母はそれをしない。  捨てるのが勿体無いのか、気にしていないのか。本当のところは知らないけれど、黙って食べる父に倣い、僕も何も言わなかった。 「頑張ってくれてるんですね」  思わぬ言葉に顔を上げた先で、都築さんが優しげに笑っていた。どくん、と心臓が脈を打つ。  見た目が微妙でも、苦笑するしかなくても、母が一つ一つ懸命に作ってくれていることを知っている。栄養バランスも、味付けも、必要なものと好みを考えてくれていた。  気づいたのは、一人暮らしを始めてからだけど。 「……結果は、出てないですけどね」 「それでも、嬉しくないすか? 素敵なお母さんっすね」  親を褒められる、というのは、こんなにもくすぐったいものだったのか。どんな顔をしていいのかわからなくて、眉間にシワが寄る。  眉間のシワだけでなく、変な顔になっていたんだろう。都築さんがくすくす笑った。 「つ、都築さんのお母さんは……え、えっと」  居心地の悪い話題を脱しようと、都築さんに水を向けようとした、その時。笑っていた都築さんの顔が一瞬で拗ねたものになった。     
/57ページ

最初のコメントを投稿しよう!

146人が本棚に入れています
本棚に追加