十二 木曜日

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 今、なんて言われたんだっけ、と考えてはいるのだが、どうしてか思考が滑って脳みそがつるつるになったみたいだ。脳内で言葉を反芻しようとするよりも、視界に入ってくる情報の処理が優先される。  呼吸、してるよな? と不安になるくらい動かなかった都築さんの手が、ゆっくりと持ち上がって、彼の口元を覆った。 「だ、れかに、自分が作った飯、食ってもらうの、が……すき、です」 「そ、そう、ですか……」  嘘ではないけれど、正しくもない気がした。だって、都築さんの顔面がかわいそうなくらいに赤い。  料理が好き、食べてもらうのが好き。いつもの都築さんなら、きっと笑って言うだろう。それは数十分に満たない会話しかしていない僕にもわかる。  しかし、彼は今、耳や首まで赤い。かすかに震える手で口元を隠して、八の字になった眉の下で、目にはうっすら涙の膜が張っていた。 「っ、失礼します」  小さく落とされた言葉は、後悔に強張っていた。
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