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十三 金曜日
「はあ……」
昼休み十分前。お湯が沸くのを待ちながらため息をついた。背後の机上には、今日も都築さんが届けてくれた弁当が並んでいる。
今日は都築さんに会っていない。たまたま僕の離席中に配達に来たらしい。それを聞いて、安心したような、残念なような、なんとも言えない気持ちになった。
「火、止めなくて大丈夫ですか」
「えっ? あっ、やばっ」
不意にかかった声に意識を引き戻される。やかんからは蒸気が勢いよく吹き出していて、慌ててコンロの火を止めた。
新調した電気ポットは以前のものよりも大きくて、自然に沸くのを待つとそれなりに時間がかかる。やかんで沸かしてポットに移し、魔法瓶で保温。昼休みはこれで足りる。
やかんからお湯を移すのは、案外熱湯が跳ねるので危ない。先に礼を言おうと振り返った。
「草町くん。ありがと」
「お茶、僕ももらっていいですか?」
「もちろん。危ないからちょっと離れてな」
草町くんは棚から自分の湯のみを出して、茶が入るのを待っているマグカップの群れに紛れさせる。素直に一歩後退すると、そのまま作業には戻らずに僕の作業を見ていた。あれ、昼休み用じゃなくて今飲むのかな。
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