十三 金曜日

1/5

146人が本棚に入れています
本棚に追加
/57ページ

十三 金曜日

「はあ……」  昼休み十分前。お湯が沸くのを待ちながらため息をついた。背後の机上には、今日も都築さんが届けてくれた弁当が並んでいる。  今日は都築さんに会っていない。たまたま僕の離席中に配達に来たらしい。それを聞いて、安心したような、残念なような、なんとも言えない気持ちになった。 「火、止めなくて大丈夫ですか」 「えっ? あっ、やばっ」  不意にかかった声に意識を引き戻される。やかんからは蒸気が勢いよく吹き出していて、慌ててコンロの火を止めた。  新調した電気ポットは以前のものよりも大きくて、自然に沸くのを待つとそれなりに時間がかかる。やかんで沸かしてポットに移し、魔法瓶で保温。昼休みはこれで足りる。  やかんからお湯を移すのは、案外熱湯が跳ねるので危ない。先に礼を言おうと振り返った。 「草町くん。ありがと」 「お茶、僕ももらっていいですか?」 「もちろん。危ないからちょっと離れてな」  草町くんは棚から自分の湯のみを出して、茶が入るのを待っているマグカップの群れに紛れさせる。素直に一歩後退すると、そのまま作業には戻らずに僕の作業を見ていた。あれ、昼休み用じゃなくて今飲むのかな。     
/57ページ

最初のコメントを投稿しよう!

146人が本棚に入れています
本棚に追加