十三 金曜日

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 草町くんがこんな顔で、そんなことを言うなんて想像もしていなかった。職場で毎日のように顔を合わせていても、表面的なことしかわからないものだな、なんて当たり前のことを考える。  浅い関わりや、上辺の人間関係じゃ足りないと思った人と友達になったり、それ以上になったりする。なんとも不思議で、三十路前になって改めて思うなんてのも変な気分だった。  最後に恋をしていたのがいつだったのか思い出せない。友達なんて、学生時代はいつの間にかできていて、いちいち作ろうなんて考えてはいなかった。 「友情も愛情も、随分遠くに感じるようになっちゃったよ。僕もおっさんだね……なんて言ったら怒られるかな」 「近くにありすぎると、視界に入らなかったりしますよ」  当たり前なのに忘れがちな事実を口にして、草町くんが僕の顔の方へ手を伸ばしてくる。いきなりだったのと、草町くんらしからぬ行動に驚いて反応が遅れた。  視線だけ動かしてみるけど、顎の高さ、耳くらいの位置にある草町くんの手首から先は見えない。 「さて、僕は今、何本指を立てているでしょう」 「……見えません」  正直に答えると、草町くんがすっと手を引っ込める。視界に入ったその手は二本の指が立てられていた。草町くんのピースサインは結構貴重なのでは。     
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