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真っ黒い髪を特にセットするでもない僕とは違うジャンルの人間のようだった。だから、続く言葉に素で驚いてしまった。
「個人的に、板井さんは何が好きかなって……すみません」
驚いて固まったまま瞬きを繰り返すうちに、ああ、失礼な勘違いをしたのかと申し訳なくなる。この子は単純に、僕と話したいと思ってくれたんだろう。昨日のやりとりがきっかけだったのかもしれない。
現場はおじさんたちばかりだし、同年代の男性と話す機会は僕も少ない。僕より十近く下の子で、おば様方が多いだろうお弁当屋さんならなおさらだろう。
「そうですね……鯖の味噌煮とか」
「……え」
「好きなおかずです。あ、あと梅煮? あれはなんの魚だったかな、小学校の時の給食で出たやつなんですけど」
「へ、へえ! 魚好きなんですか?」
「好きは好きですけど、自分で捌けないっていうのも大きい気がしますね。自炊ほとんどしないので、肉も魚も家で食べる頻度はあまり変わらないかもしれませんが」
自分で言っていてだらしないなと苦笑する。これでも学生時代は自分なりに頑張っていたのだが、就職してからはほとんどしなくなってしまった。
「料理する暇もない、というわけではないはずなんですけど、台所に立つのが億劫なのはどうしてでしょうね」
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