十五 火曜日

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 いつもなら気にしない程度の、なんでもないことだと思う。なんだろう、梅雨入りして、気づかないところで気圧にやられてたのかな。イライラじゃない、もやもやだと、自分の中の感情を表現だけでも和らげようとしてみるけど、焼け石に水だ。 「えっと、味見、します?」 「きみがもらったんでしょう?」 「あ、の……だから、一口、とか」  なんとなく、不快。  きっと、顔に出てしまっていたんだろう。声もトゲトゲしかったかもしれない。不安そうにこちらを見ているのがわかって、神経を逆撫でされているみたいに思えてしまう。  こういう感情は、外に出してはいけないものだ。職場では、上機嫌でいることは仕事の効率にも繋がる。わかっているのに。 「いえ、いいです。今度、自分で買ってみます」  愛想笑いが上手くできていなかったのかもしれない。都築さんが怯んだように見えて、ずるいなあと心の中でため息をついた。  何を、期待していたんだろう。  友だちになれると思った。友人として好ましいと思っていた。都築さんも、同じように思ってくれていると勝手に思っていて、言葉にすらしてくれたんだと思ったのに。  何故か、言葉はなかったことにされた。今まで通りを望まれてると思ったのに、目が合わない。なのに、近づいてこようとする。  なあ、都築さん。きみ、何がしたいの。 「お疲れ様です。また、明日」  歳下相手に、何を意地になっているのか。自分自身が情けなくて、都築さんの顔が見られなかった。
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