十六 水曜日

2/3

146人が本棚に入れています
本棚に追加
/57ページ
「子どもみたいなことしてすみませんでした。自分にも、板井さんにも、ちゃんと向き合います。逃げません」 「なに、言って」 「今日のカレー、板井さんのために作りました。絶対、食べてください。それから」  握られた手を見ていられなくて、顔を上げた。上げなければよかった。  頬を染めてまっすぐ僕を見る都築さんなんて、見ちゃいけなかった。見なければ、心臓が跳ねることも、それに気づくこともなかったのに。 「これからも、おれが作った飯、板井さんに食べてほしいです」  プロポーズみたいだなと思った。おれのために味噌汁を作ってくれ逆バージョン。  変な勘違いをしそうになって、現実逃避のネタのつもりだった。でも、都築さんの顔を見てると勘違いでもないのかも、なんて思えてくる。  落ち着け、自分が作った飯を食ってほしいって、料理で稼いでいるのだから当然と言えば当然の欲求だ。  もしかしてと、そんなバカなを行ったり来たりしていたら、少しだけ手を握る力が強くなった。あまり強く手を握らないでくれ。心臓がうるさい。心臓がいつも以上に動いて、顔も、さっきまで冷たかった手まで熱くなってく。     
/57ページ

最初のコメントを投稿しよう!

146人が本棚に入れています
本棚に追加