十六 水曜日

3/3

146人が本棚に入れています
本棚に追加
/57ページ
 緊張で若干ピントの合わない視界で、少しだけ潤んだ都築さんの目を見つけた。僕以上に、心臓が痛いほど脈打っているのがなんとなくわかる。わかってしまって、それが伝播するみたいに僕の中で血が駆けた。 「また、明日」 「……は、い」  かろうじて口から出した返事に微笑みで応えて、都築さんは手を放す。視線も外れて、帰っていく背を見送った。  握られた左手が熱くて、少し痺れている。滞っていたものが急に流れ出す、内が燃えるような感覚はあまり好きじゃない。  自分の動悸の理由も、都築さんの表情の意味も、わからなくて、わかりたくて、わかりたくない。  わけもなく叫びそうになる衝動を抑えるように、彼が触れた左手を右手で握りしめた。
/57ページ

最初のコメントを投稿しよう!

146人が本棚に入れています
本棚に追加