十七 木曜日

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十七 木曜日

「ピクルスは好きですか?」 「ピクルス、ですか?」  どう話を振ったらいいかわからなくて、受領書を返す時に都築さんから聞かれるまで口を開けなかった。都築さんは少しだけ緊張しているようにも見えるけれど、視線は泳いでいない。 「あんまり、興味ないですかね……作ってみたんですけど」  そう言って、都築さんは手首に引っかけていたビニール袋から見覚えのある瓶を取り出した。中はカラフルで、よくよく見ればキュウリ、プチトマト、パプリカ、ニンジンなどなど、色んな野菜が入っている。  僕の中の漬物のイメージは祖父のぬか漬けだ。漬物は祖母ではなく祖父が作っていて、ぬか床をいじる後ろ姿を覚えている。記憶にある漬物は、どれもしなしなしていて、若干ぬかの色が移っている。 「漬物って、こんなにカラフルでしたっけ……」 「目にも楽しい方がいいかなって……苦手なものとかあります?」 「いえ、多分食べられないものはないと思います……この、薄くて丸いのなんですか?」 「ラディッシュです」 「らでぃっしゅ」 「二十日大根ですね」  そんなシャレた名前があったのか。聞いたことはある気がするけど、同じものっていう認識はしてなかった。     
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