十七 木曜日

2/4

146人が本棚に入れています
本棚に追加
/57ページ
 都築さんが見やすい位置に掲げてくれたので、瓶いっぱいに詰まったピクルスを色んな方向から眺めてみる。どんな味がするんだろう。 「やっと笑ってもらえました」  言われて、頬が緩んでいるのを自覚する。色々考えていたはずなのに、目の前のうまそうなものに完全に意識を持っていかれていた。食欲というか、本能は正直だ。  子どもみたいな反応を都築さんは笑わないだろうけど、年上としては少々恥ずかしい。おずおずと姿勢を正して距離を取る。 「よかったら、食べてほしいなと思ってるんですが……受け取って、くれますか?」  聞かれてしまうと断りにくいし、昨日の話が脳裏でぐるぐるし始めてしまって受け取りにくい。下心があるのかないのか、確信もない。  どういう顔で、どう答えればいいのかわからなくて、うつむきがちに聞き返した。 「……もらって、いいんですか?」 「もらってほしくて、作ってきたんですよ」  そう言って、都築さんが優しい顔で笑う。こういうのはイケメンでいいのか。カッコいいっていうか、かわいいっていうか、言葉が見つからないけど、とにかく心臓に負担がかかる笑顔だった。  自分のために料理してくれて、食べてってこんな風に笑われたら女の子なんてイチコロだろうな。僕相手にこんなことしてていいのか、都築さん。  勘違いじゃないって、思っちゃうぞ。     
/57ページ

最初のコメントを投稿しよう!

146人が本棚に入れています
本棚に追加