第3話 あの人の鼓動は……

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 そう思い肺に入っていた息を大きく吐き出した。それと同時にカツ、カツ、と音を鳴らしながら近づく一組の人影が見えた。真理の両親だ。偶然にも真理が倒れた時に二人は県外へ仕事に出ていた為、病院に到着するのが遅れたのだ。 「英斗君、真理はどういう状況なんだ?」  父親である孝三(こうぞう)の問いに答えたのは西野医師だった。俺に語った事を一言一句違わずに告げた。診断結果を聞き終えた孝三さんと母親の海枝(うみえ)さんの二人は、少し考えた素振りを見せると西野医師に向かって口を開く。一瞬、躊躇うように目を伏せたが最後は告げた。 「真理の血液型はA型RhK0なんです。それでも臓器提供は望めるでしょうか?」  その一言を聞いた途端、西野医師の表情が一変した。『A型RhK0』その単語には聞き覚えがある。世界的にも貴重な血液型。そんな貴重な血液型を持つ人物の臓器が提供されるというのは考えにくい。もしかしたらそんな提供者が現れるかもしれないが、臓器が届くまで理恵の命は持たないだろう。  とある可能性以外は。  両親と西野医師の視線が床に落ち、廊下は異様な静けさに包まれる。 「あの、俺なら臓器を提供出来るかもしれません」  静かな廊下に響いた俺の声に、全員の視線が一斉に自分に向く。 「俺、A型RhK0です。臓器提供出来ると思います」 「しかし英斗君、それは……。まだ可能性が残っているんだ。まだ諦めるには早い」     
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