0人が本棚に入れています
本棚に追加
「無理なのは承知の上です。彼女は元気になると言ったんです。もし真理が死んでしまって、自分だけがのうのうと生き残ったら、自分が許せないんです。例え俺が――」
「分かりました」
まるでその言葉を言わせないこのように俺の言葉を遮った西野医師は了解の意を示す。
「先生!」
それに対して孝三さんが声を荒げる。
「もちろん、それは最後の手段です。しかし、いつまでも待っている訳にはいきません。タイムミリットは明日の午後十二時です。それがお嬢さんが手術に耐える事のできるギリギリのラインです。
ご両親は娘さんに会って行って下さい。喜ぶと思いますよ。それから深藤さんはお話があるので少しの間いいですか?」
それを合図にその場は解散となった。俺は小さな会議室のような部屋へ連れて来られると座る様に促された。
「本当に臓器提供をするつもりですか?」
「はい」
じっと俺の目を見つめるとフッとその表情を崩した。
「こんなに想ってくれる許嫁がいるなんて、真理さんは幸せ者ですね。……すみませんがサインして欲しい書類が幾つかあるのでお願いします」
数枚の紙とボールペンを渡され、迷う事無くサインして行く。書類の内容は思っていた通りだった。滞り無く全て書き終わると書類を渡す。
「真理の事、頼みます」
「はい、任せて下さい。必ず助けます」
そう言うと西野医師は会議室から出て行った。
最初のコメントを投稿しよう!