0人が本棚に入れています
本棚に追加
/26ページ
「最低」
何度目になるか数えるのも億劫になった言葉。無意識に出てきてしまうそれに、応えたかのようにポツリ、ポツリ、と降る雲の涙。
「泣きたいのはコッチよ」
自然現象に何を言ってもムダだ。そんな当たり前な事でさえ、今のこの気持ちには関係無い。とうとう雨が本降りとなる。それは私の制服を濡らし、容赦なく体温を奪っていく。
俯けていた視線を上げると、目の前を一組のカップルが通り過ぎた。
互いの手の平を重ね、絡め合い、一つの傘に入り、幸せが溢れんばかりの眩しい笑顔をしていた。
その姿が今朝の私たちの姿とダブって見えた。鼻の奥がツンとする。
「本当、最低」
「誰が、どう、最低だって?」
傘と共に私に向けられた言葉。独り言に応えた声音は、ずっと聞きたかった彼の物だった。それは、不機嫌だったが、決して険悪なものではなかった。
「ど……どうして……」
「どうしてもこうしても無いだろ。今にも泣き崩れそうな顔しやがって」
なんで? どうして?
私の中で色んな思いが泡の様に浮かんでは弾けて消える。
「でも、私はあなたを傷つけたのよ」
すると彼は呆れた表情になって、ため息を一つ吐く。
最初のコメントを投稿しよう!