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「確かに傷つけられたけど、恋人同士なんだからケンカの一つや二つ、当たり前だろ」
やめろ。やめてくれ。
今の私にそんな言葉をかけるな。お前の事なんか知らない。もう関わらないでくれ。そう冷たくあしらわれる方が今の私にはお似合いだ。
だから、そんな優しい言葉なんてかけるな。
きっと、無様な姿を晒してしまうから。
そして、また私の事を受け入れてくれると期待してしまうから。
「それに、あの時は俺も悪かったしさ。本当にゴメ――」
「やめて」
私の悲痛な叫びは、コンクリートを打つ雨音のみの路地に響き渡った。必死に出した声は掠れて弱々しかった。
「やめて。お願いだから、私に優しい言葉をかけないで」
「嫌だ」
間を開けずに返された拒絶の意思に、思わず口を噤む。
「嫌だ。だって俺はお前の事を愛してるから……」
愛してる。
好きでも、恋してるでもなく、
『愛してる』
そう告げた彼の姿はとても格好良く、眩しく映った。
「重いと思われるかもしれない、引かれるかもしれない。けど、これが俺の本心だから」
そう続ける彼の目は、冗談やからかったり、まして嘘を吐いているとは思えない真剣な光を帯びていた。
視界がぼやける。霞んだ世界で慌ててる彼。格好良かったさっきとのギャップに思わず笑いがこぼれる。
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