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手に持った、さっきまで冷えていたソーダの瓶が僕と同じように汗を流している。あまりの暑さに耐え切れずのっそりと上体を起こして扇風機を回す。蚊取り線香の匂いが扇風機の風と一緒に漂ってきたのを感じながら水色の瓶を傾ける。
炭酸が抜けきり、温くなったそれを味わうこともなく喉の奥へ流し込む。とうとう意識さえ朦朧としてきた時、図書館で涼しそうに本棚を整理する職員の姿を思い出し「図書館にでも行けばこの暑さを乗り切れる」と閃めいた。
今思えば、あそこで閃いたのも、何かの運命だったのかもしれない。
その後の僕の行動は早かった。ポケットになけなしの小遣いをしまうと、自転車に跨り、走り出した。さっきまで鬱陶しかった蝉の合唱は既に風の音に変わっていた。
それから十五分後、期待以上の冷気に出迎えられた。普段から本を読むわけでは無いため、図書館に足を運ぶ事など滅多に無い。そんな僕の目に、立ち並ぶ巨大な本棚はとても新鮮に映った。
しかし、特に目を引いたのはそびえ立つ本棚でも、そこに陳列された本でも無く、真っ白な壁を背にして小さな椅子にひっそりと腰掛けた一人の少女だった。
うねる黒髪が印象的なその少女に僕はただただ見惚れていた。そんな僕は、まるで何かに引き寄せられる様に少女のもとに歩み寄り「なあ」と声をかけた。しかし、その少女は見ず知らずの僕から突然声を掛けられたにも関わらず、大して驚いた風もなく僕のことを見上げた。
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