第2話 夏の実像

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 今にも吸い込まれてしまいそうな程深い漆黒の少女の瞳はジッと僕のことを見つめる。  暫くだった時、不意に「彼方の両親は」と消えそうな声で少女が呟いた。僕はそれを聞くなり大きく顔を顰める。最近、両親の仲は良くない。  僕の前では普通に振舞っているが、何となく子どもの僕はそう感じていた。否、子どもだからこそ、二人の些細な態度の違いに気が付いたのかもしれない。  そんな僕に構うことなく少女は口を開いた。 「二人は彼方のことを一番に考えている。だからこそ、このままだと彼方はこの先大きな傷を負う」  思わず「あんたに何がわかるんだよ!」と怒鳴りかけ、声になる前にここが図書館であることを思い出し口を噤んだ。 「私は、彼方の全てを知っている。私は彼方だから??知っている」  そう語った少女の眼は、僕の全てを見透かしてるように感じた。その後、僕は少女と何の話をしたのか覚えていない。ただ、気がついたときには、何か憑き物が落ちかのように身体も心も軽くなっていた。そっと少女が座っている方に視線をずらすとバッチリと目が合った。  少女ではなく鏡に映った僕の実像と。     
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