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そうしてなんとか落ち着いてきた頃、笑いすぎたせいで滲んだ涙をさっきの涙と勘違いしたらしい律くんは、またミスマッチな困り顔を浮かべてそっと拭ってくれたんだ。
「律くん、案外私のこと好きなんだね」
「…なに急に調子のってんの」
「あはは、本当だ」
「……まあ、でも」
ふと、瞼を撫でる親指が頬へ移り、次第に口元へと運ばれる。
視界を覆いつくされてしまうほどすぐ近くまで迫っている彼の瞳が、私でいっぱいになっていた。
身体中の脈が動揺しているのが自分でも分かり、なんとか気を紛らわそうと目を逸らす。けれど、まるで『こっちを見ろ』とでも囁くように彼の親指が私の唇を撫でるので、私の頭の中はあっけなく彼の熱に埋め尽くされてしまった。
中学生じゃあるまいしキスごときで余裕をなくすなんて情けないけれど、通常を遥かに上回る彼に夢中になってしまった以上、きっと世間の常識は通用しない。
一度目の重なりを終えた唇が、私との間にほんのわずかな隙間を作る。そこからほんのり漏れる真っ白な息は、一体彼と私のどちらのものなんだろう。
そんなことを考え始めて数秒も経たないうちに、その吐息ごと、再び彼によって飲み込まれてしまう。
二度目のキスは、少し長かった。それでもまだ触れていたくなるほどに、私は彼の熱に浸食されているのかもしれない。
「まあ、でも……」
息の上がった私とは正反対の、涼しい顔をしている律くんが、再びさっきの言葉を繰り返す。
なんでそんなに余裕なんだ、って言ってやりたい気持ちがぼんやり浮かぶけど、すぐにどうでもよくなったから、私は黙って彼の言葉を待った。
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