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そんな日常を破ったのは、1つの物音だった。
硬い何かが外れるような音。
それは男のいる所とは反対側の、一番奥の使われていない牢からだった。
キィ、と金属の擦れる耳障りな音が鳴る。
(何だ?誰か侵入してきたのか?こんな牢屋に?)
男は限界まで格子に顔を寄せるが、死角になっていて侵入者を見る事が出来ない。
しかし、姿を見たであろう囚人達の空気が変わった。
息を呑む者やすすり泣く者。
先程までのほのぼのとした雰囲気とは異なるが、緊迫感はなく、寧ろ安心感に包まれたような状況に男は困惑した。
カチャン、と金属の壊れる音がした。
鍵を破壊しているようだ。
「ああ、ああ!神子様…!」
「お久しぶりです、おば様。お迎えに上がりました」
カチャン
「お綺麗になられて…」
「ふふ、相変わらずお上手ですね。…お元気そうでなによりです」
カチャン、カチャンと次々に鍵を壊し、その度に囚人の一人一人に優しく話しかける少女の声。
美しい、鈴を鳴らした様な声だ。
それが段々と男の方へ近付いて来る。
遂にその後ろ姿を見た時、男は既視感に襲われた。
長い美しい黒髪に黒いマントを羽織り、裾の部分が赤いプリーツスカート。
マントの裾から見える長い物は剣だろうか。
そして、男の向かいの牢屋の鍵を壊し男の方を向いた少女はハッと顔を強張らせると一瞬で怒りに顔を染め上げ、叫んだ。
「お前は!!!」
その顔は、あの夢の少女と同じ顔をしていた。
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