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心臓がドキドキと音を立てて動き出す。
目の前に、3年前に別れた由香里がいる。
そう、錯覚してしまう。
「……あの」
電話を置いて、立ち去ろうとする彼女に堪らずそう声をかけた。
「……はい?」
背の高い俺を見上げる彼女の顔は近くで見れば見るほど由香里にそっくりだった。
「……あの?」
「あっ、すみません。えっと……この病院に入院を?」
声をかけたのはいいものの、その後何を話せばいいのか分からず、咄嗟にこの質問をした自分に嫌気がさす。
「あっ、これ……入院服を着てますけどそうじゃなくて。看護師さんに間違いでこれを渡されて、でもせっかくだからから……私はただ少し治療を」
「治療?」
「これです。やけどと擦り傷?今日、車とぶつかっちゃって、大した傷でもないのに相手の方が親切にここまでしてくれて……あなたは?」
彼女はどうやら俺が声をかけたのは病院内で時々見かける患者同士の世間話くらいに思っているようだ。
「僕は……、僕はこの病院にいる患者さんに声をかけて回るおじさんみたいなところかな?ははっ」
「あはは、おじさんだなんて。若いし、お兄さんですよ」
何も知らない彼女は本当のことを言えない俺に向かってそう笑いかけた。
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