年上の女性

3/8
前へ
/8ページ
次へ
 俺が高校生の時だったと思う。  信号に捕まらずに駅についたおかげで、いつもより一本早い電車に乗れた日。  彼女は既に電車に乗っていた。ひとつ離れた扉のそばの座席で本を読んでいた。  当時の俺は、ただの乗客としか思わなかった。話す機会はもちろん無かったし、彼女との接点は何もなかった。  何処から乗って、何処で降りるのかも知らず、知っているのは、静かに本を読む姿だけ。  とびきり美しい訳でも、醜い訳でもない。  それなのに、頭から消えない人だった。  生まれてからずっと祖母と二人で暮らし、両親の顔すら知らないまま俺は育った。  子供の時は寂しい思いもした。  けれど、二十歳から独り暮らしで、はや五年。  一人にも慣れた頃、俺は彼女と再会する。  そして、――――俺の人生は変わっていった。  高校を卒業して就職し、仕事を頑張る日々。残業も少なくないし帰りの時間はバラバラ。  それでも朝は、学生時代と同じ電車に乗る日々が続いていた。  しかし、その日はいつもより遅い時間に電車に乗った。  普段とは違って、家族連れやカップルが多く乗っていて、込み合う車内。  当然のように、あの日見かけた彼女の姿は無かった。  この日は土曜日で、休日の俺は、とある場所へと向かっていた。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加