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しかし、姉がいる事は聞いたことがなかった。
姉を名乗る女性が、自分の存在を証明するかのように話を続けていく。
「父さん……私の養父にあたる人なんだけど、仕事の関係もあってまとめて二人を引き取れなくて産まれたばかりのあなたをお婆ちゃんに任せたらしいの」
「……はあ」
「お母さん……えっと、私達のお母さんはね、ずっと入院してる。
あなたを産んで一安心してすぐに、お父さんの事を知ったらしいの……精神的に耐えられなかったみたいで……」
「……」
喜びに満ちてすぐ、悲しみのドン底に落とされた母親の痛み。
想像は出来ても、理解は出来ない。
俺を捨てる事さえも出来ず、母親は現実を受け止めきれずに苦しみ続けていた。
それを知った俺は、何も言えなくなっていた。
「……三年前、父さんも病気で亡くなったんだけど、父さんの葬式で『生まれたばかりだったあなたがどうしてるのか』って親戚の中で話題が挙がって私はあなたを知ったの」
まさかとは思いつつ、母親に俺の存在を話してみたら反応があったらしい。
次第に父親(旦那)の死を理解しはじめ、今では俺に会いたいとまで言い始めていたそうだ。
話は続き、俺もこの状況をなんとなく理解した。
「連絡先も聞けたし、今日はもう帰るわね」
「あ、はい。……あの、母親……お、お母さんに今度会わせて下さい」
「ええ。
すぐに、とは言えないけど必ず連絡する。それじゃあまた」
そう言って、姉は駅の方へ歩き始めていた。
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