第5話 憧れの先輩

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大学の研究棟にいらっしゃった教授に無事にレポートを提出し、さて帰ろうと入り口のドアを開けたら、藤代先輩とばったり会った。 「あれっ、日野くん。久しぶりだね。元気だったかい?」 「藤代先輩。お久しぶりです」 藤代先輩と会うのは、僕が高村さんと初めて会った日以来だ。接点の少ない人だから、遠くに見かけることはあっても挨拶できる程近くでは会っていなかった。 僕は食堂でのやりとりを見られたのが恥ずかしくて顔を合わせにくかったけど、軽く声を掛けてくれたところをみると、食堂での事は気にしてないみたいで、ホッとした。 「レポートの提出?間に合ったみたいで良かったね」 「はい、何とか出来ました」 先輩のニコニコ顔につられて笑顔になる。 「今日は眼鏡なんだ。掛けてるところ初めて見たよ」 ふいに顔を覗き込まれた。急で、咄嗟に顔を隠すことができなかった。僕の顔を近くで見た先輩は、目の腫れに気付いたらしく、ハッとなり、痛ましそうな表情になった。 僕は、居た堪れなくなって下を向いた。 「…僕は教授のお使い。これ渡したら戻るんだ。日野くん、もう帰るなら途中まで一緒に行こうよ」 「はい」 僕が触れて欲しくない事に気付いたんだろう。先輩は気付かない振りをしてくれた。 並んで歩く道すがらは、必修科目の事やコンビニの新商品など、たわいもない話をした。 「日野くんは相変わらず痩せてるよね。はい、これ」 しばらくすると先輩はポケットに入ってた飴玉をくれた。 右の掌で受け取ると、左ポケットからクッキーが2枚出てきた。左手も添えて両手で受け取ると、今度は胸ポケットからキャラメルが出てきた。 「ははっ、あはははっ」 次々と出てくるお菓子に目を丸くして、こらえきれずに笑ってしまった。 先輩はイタズラが成功した顔でニッコリ笑い、僕の両手を上下に挟むように包み、キャラメルをくれた。そして手を離すとき、そっと手首を撫でていった。 手首の痣もバレていたのか。 先輩の優しさが沁みて、泣きそうだった。
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