話すことの出来ない彼女

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 後で訊いたが、この本を描く作家は、美野里が崇拝するほど好きな作家だった。だからだろう。彼女の描く小説に似ていた。いやそれを言うならば、美野里が真似ていたのだろう。好きな言葉や言い回しなどを。  ある日この本を読んだ僕に美野里は  「達哉、恋愛小説書いてみない」と言ってきた。  「ええ、恋愛小説。む、無理だよ」  「いいから、短編でいいから出来たら読ませてね」  美野里は断る僕を押し切り、半ば強制的に恋愛小説を書かせた。  それからと言うもの、編集担当にダメ出しを食らう作家の様に「んん、まだまだね」「没」と一言で返されたり「ホント、相手の気持ち解ってないねぇ」などとダメ出しばかり食らっていた。  そんな美野里も、自分が崇拝するあの作家から脱っせようと苦しんでいた。  「ああ、やっぱ今まで真似ていたのが行けなかったわ。どうしても抜け切れない」  「そんなことないよ。だいぶ感じが変わってきたよ」  そんな僕に美野里は  「だいぶじゃダメなの。私が私じゃなきゃ行けないの」   そんな事を言いながら「まだまだ」と言って僕の原稿を突っ返す。  僕らも高校最後の年になり、大学受験というもう一つの目標に向かわなければ行けなかった。  「なぁ、美野里。お前どこの大学受けるんだ。いい加減白状しろよ」  夏休みも終わろうとしている頃、すでに進学メンバーは自分の志望校を決めていた。でも美野里に何度訊いても帰ってくる返事は     
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