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話すことの出来ない彼女
***話すことの出来ない彼女***
地味で大人しく、誰の中にも入ること無く窓際の席でいつも一人、窓から外を眺める子がいた。
彼女は冨喜摩 美野里(ときま みのり)
クラスの女子から話しかけられても、彼女はただ頷くだけ。彼女の返事は頷くこと。
そう、彼女は話すことが出来ない。
どうしても、相手に伝えなければいけない事は、彼女がいつも持ち歩くノートに書いて相手に伝える。
それは、伝えられる方にも、伝える方にとっても労力のいる事だった。
だから周りの子は、だれも話しかけようとはしなかった。
「大変だから」
そして彼女もそれを痛いほど感じていた。
今日の授業終了のチャイムが鳴る。
「起立、礼」
にわかに教室が束縛されていた空気から解き放たれる。
部活に勤しむ者、帰宅部として学校からいち早く出て行こうとする者。それぞれ赴く方向へ動いていく。
ふと窓際の席を見ると、一つの席が既に空になっていた。いつもそうだ、チャイムが鳴ると同時にそこの席の主は、目を盗むように居なくなる。誰もそれを不思議と思わない。
彼女だから……
でも僕は、彼女の行先を知っている。
それは……
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