Part 1

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「海くん、お酒呑めますか?」 突然の質問の意図が分からないが、 「呑めます…というか、好きです」 時間がランダムな仕事だから、毎日は呑めないが、お酒は好きだ。 「じゃあ、宅飲みしません?」 「…宅飲み…?」 眩しいほどの笑顔で、 「ちゃんとした歓迎会は、母さんが考えてくれてると思うんです!でも、その前に、ふたりで先にお祝いしましょう!私のお気に入りの定食屋さんが、お持ち帰り出来るお惣菜を売っているんです…外食は次の機会にして……どう、でしょう?」 思ってもいなかった、柚乃さんからの提案に、頬が緩む。 「是非っ!」 俺のことを考えてくれたことが、めちゃくちゃ嬉しい。 「じゃあ、お酒買いましょう!」 明らかに、ケーキの材料より多く買ったお酒と、つまみ。 スーパーから音羽屋へ向かう途中に、柚乃さんのお気に入りの定食屋があった。 「こんばんは!」 「あら?柚乃ちゃん!珍しい時間に来たわね、いっらっしゃい!」 店主らしい女性が、柚乃さんの後ろにいた俺に視線を向ける。 「こんばんは…」 キャップを外し、頭を下げる。 「あら?…あらあらあら!?」 ヤバッ!…気付かれたかな… そう心配した俺の焦りとは、全然違う言葉が飛び出した。 「もうっ!柚乃ちゃんたら…こんなイケメンどこでつかまえたの?」 にやにやと含み笑いをしながら、そう言った店主に、 「「…えっ!?」」 俺と柚乃さんの声が被る。 「こんな時間にふたりでいて…デートだったの?」 俺としては、店主の勘違いは嬉しいもの……傍から見てそう見えるということが、嬉しい。 でも、 「ち、違いますよっ!彼氏じゃないです!」 力一杯否定する、柚乃さんの言葉に一瞬で沈む気持ち。 …ですよね…… 実際違うんだから、そりや全否定しますよね… 「またまたぁ~照れちゃって!」 「照れてません!本当に違うんですっ!…もうっ!…何にします?」 店主から俺に振り向いて、柚乃さんが問う。 「…おすすめで…」 ショック…というのは、言い過ぎかもしれないけど、柚乃さんにとって、俺って…男として意識…されてないのかな…? そんなことを考えてしまう。
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